猫目線で心地よく暮らす vol.10「猫の歯磨き」

2021/05/29

猫に歯磨きが必要なの?と思われる方も多いでしょう。野生の猫は当然、歯磨きなんてしていません。それは獲物の皮やスジ肉など硬くて大きいものを噛むことで歯が擦れて歯垢が溜まりにくく、寿命が短いので歯がダメになる前に寿命を全うするからです。一方で、人間と暮らしている猫は柔らかいウェットフードや食べやすいサイズのドライフードしか食べないので歯垢が溜まりやすくなります。また野良猫の寿命5〜6年と比べて室内飼育での寿命は16年あり、加齢とともに歯が悪くなるのは猫も一緒です。猫の歯肉炎は腎臓病の発症率と強い相関があり、歯は健康寿命にも大きく関係しています。

猫の歯の病気はどんなものがあるのでしょうか。まず人で多い虫歯(齲歯)は猫にはありません。これは口腔内細菌が関係しているようで、甘いものをほとんど食べないことが虫歯にならない理由だと考えられています。一方で歯肉炎や歯が溶けてしまう吸収病巣と呼ばれる病気が猫では多いです。いずれも歯垢や歯石が悪化要因になっています。

ただし、1〜2歳以下の猫で口臭が強い、歯肉が赤い場合は若年性の口内炎の可能性があります。これは免疫の細胞が炎症を起こしており、歯磨きをすると強い痛みを伴うため、歯磨きはお勧めできません。治療について獣医師と話し合う必要がありますので、若いにもかかわらず口が痛そう、口臭が強い、歯肉が赤いなどの症状がある場合は必ず動物病院を受診しましょう。

猫の歯磨きの実際

歯肉炎を防ぐためにはやはり歯磨きが有効です。ただし歯磨きを許容できる猫は限られており、私も3匹猫を飼っていますが、歯磨きをやらせてくれるのはそのうち1匹だけです。無理に歯磨きを続けるのは飼い主と猫の関係が悪化し、ストレスが増え猫のためにならないのでやめましょう。歯磨きができない猫は、効果は限定的ですが、代替方法でホームケアをしましょう。

歯の磨き方

写真のようにヘッドの小さい猫用の歯ブラシが市販されています。ブラッシングの強さは人と一緒で強すぎないように気をつけましょう。歯の内側の面を磨くのは歯ブラシを噛んでしまいますので、猫では困難ですので、外側だけ磨きましょう。歯ブラシ以外にも摩擦力が調整された布製の商品(コットンシートなど)もあり、そちらの方が猫が嫌がりにくいのでおすすめです。特に上顎の奥歯(写真で臼歯の矢印のある場所)に歯石が溜まりやすいので重点的に磨きましょう。

歯磨きの代替法

上記のように歯磨きを嫌がる猫は少なくありません。効果は限定的ですが、いくつかの代替法があります。1つは食べ物の摩擦を増やしたり、何度もかむ必要があるフードやトリーツを与える方法です。食わず嫌いのある猫以外は簡単に導入できるでしょう。もう1つは歯周病菌に対抗する善玉菌や、増殖を抑える酵素などを含んだサプリメントです。こちらは食事を替えることなく簡単に導入することができます。

最後に

すでに歯垢が歯石になっている場合は歯磨きでは取れません。歯垢が歯石になるには1週間かかります。歯石はスケーラーという器具を使って麻酔下で行う必要があります。おとなしい猫であれば無麻酔で部分的に歯石をとることはできますが、痛みを伴うのと、部分的に歯石をとっても歯肉炎の改善にはならないのでお勧めしません。

歯肉炎の予防は、ひいては腎臓病の予防にも繋がり、さらには健康寿命にも関係します。そのため歯磨きができる猫であればやった方が良いでしょう。ただし歯磨きができる猫はむしろ少数派、その場合は代替法や動物病院で定期チェックを受けて歯石が溜まっていないか、歯肉炎がないかみてもらいましょう。歯科処置は麻酔が必要なので、かかりつけの獣医師と相談する必要がありますが、口が痛いのは猫もとてもストレスになるため、やってあげると食欲元気が大きく改善することが少なくありません。

 

山本宗伸 / やまもと そうしん

Tokyo Cat Specialists 院長

日本大学獣医学科外科学研究室卒。東京都出身。授乳期の仔猫を保護したことがきっかけで猫に魅了され、獣医学の道に進む。獣医学生時代から猫医学の知識習得に力を注ぐ。都内猫専門病院で副院長を務めた後、ニューヨークの猫専門病院 Manhattan Cat Specialistsで研修を積む。国際猫医学会ISFM、日本猫医学会JSFM所属。

http://tokyocatspecialists.jp/