猫目線で心地よく暮らす vol.8「猫の水分補給」

猫目線で心地よく暮らす vol.8「猫の水分補給」

水は生物の構成要素として最も豊富に存在する物質で、生体の70〜80%は水によって占められています。一般的に体重の数%の水分を失うだけで体調に大きな影響を及ぼし、15〜20%失うと死に至ります。ただし猫は犬などに比べると渇きを感じるのが鈍い特徴があります。これは猫の祖先が乾燥した環境で生活していためと考えられます。猫は体重の4%程度の脱水であれば、ほぼ問題にならいと考えられており、渇きには強い動物です。一方であまり水を飲まないという特徴が、尿路結石や腎臓病になりやすい原因になっている可能性があります。

必要な水の量

猫の1日の必要な水分量は体重1kg当たり、44〜66mlとされています。幅があるのは体重によって変動するからです。体重4kgであれば中間の55mlを採用し、4×55ml=220mlと、6kgであれば44mlを採用し、6×44ml=264mlというように計算しましょう。

より簡易的には1日のカロリー必要量とほぼ同じとされています。1日必要カロリー量はフードのラベルに書いてあることが多いです。1日の必要カロリーは計算でも求められますが、むしろ複雑な計算式になってしまいます。

1日カロリー量=1.2×70×(体重)0.75

電卓で計算するときは「体重×体重×体重、その後√を2回押して、70をかける」

水分の摂取方法

上記の「必要な水の量」で計算した量ほど飲んでいない、という猫がほとんどだと思いますが、それは心配ありません。水分は以下の3つのルートから摂取されるからです。

1:代謝水

生物はエネルギーを産生するときに水が生成されます。この代謝水は100kcal当たり約13ml生成されますので、1に日の水分摂取量の10%程度が代謝水から摂取されます。

2:食事中に含まれる水分

ドライフードであれば食事中の10%ほどが水分になります。一方ウェットフードの場合は75%が水分です。ウェットフードを主食に食べている猫は、食事中の水分で大部分が賄えるため、飲水行動があまり見られないことがあります。

3:飲水による摂取

最後はいわゆる水飲み皿から摂取している水分になります。

これらの3つの合計が必要な水の量に近い程度で摂取していれば大丈夫です。

 

水分摂取量の増やし方

3つの水分を合計しても足りてない場合は、水分摂取量を増やす工夫をしましょう。

猫に水分を多くとってもらうコツがいくつかあります。

 

・複数の水飲み場を用意する

野外の猫を想像してみるとわかりますが、水飲み場は様々なところにあるはずです。食事の隣だけでなく、猫がくつろいでいる場所の近辺、アクセスしやすい場所にも水飲み場を設置してどこでも飲めるようにしておきましょう。

・ウェットフードを活用する

ある実験ではドライフードよりも、ウェットフードを食べている猫の方が、トータルの水分摂取量が多くなるという結果が出ました。見かけ上の飲水量は減りますが、ウェットフードにするだけで膀胱炎などのトラブルが減ることもあります。

・給水機を活用する

ある種の猫は流れる水を好んで摂取することがあります。猫によっては流れていないと飲まない猫もいます。ウォーターファウンテンと呼ばれるような噴水状のものや、蛇口のように飛沫がたつものが市販されていますので、愛猫にあったものを選んであげると良いでしょう。

・器や水にこだわる

容器はあまり匂いを発さない、陶器やガラスが好ましいと考えられています。またある程度のサイズと重量があると飲みやすいでしょう。水は水道水で問題ありませんが、中には匂いを気にする猫もいます。ただしミネラルウォーターは硬度が高いと結石のリスクが高くなるので、硬度100前後のものにしてください。反対にミネラルウォータよりも水道水を好む猫もいますので、愛猫の嗜好に合わせてください。

高齢猫での水分補給

猫は加齢によりさらに渇きを感じるのに鈍感になり、飲水量が低下することがあります。また腎臓機能の低下により尿量が増えると、脱水に陥りやすいため注意が必要です。それ以外の病気でもウェットフードを主食にしている場合は、食事中の水分量の割合が高いため、食欲不振に陥った場合、水分摂取量も大幅に低下します。嗅覚も低下するので、ウェットフードを暖めてあげると良いでしょう。

一方で水を飲みすぎるというのも病気のサインです。飲水量だけで体重1kg当たりドライフードの場合は60ml以上、ウェットフードの場合は10ml以上摂取している場合を多飲と呼びます。多飲を起こす病気として腎臓病以外では、糖尿病、甲状腺機能亢進症などがあげられます。10歳を超えてよく水を飲むと感じたら、一度動物病院で検診を受けることをお勧めします。

まとめ

猫は人や犬と違い、渇きを感じるのが遅いという特徴があることを念頭に置いておきましょう。1日の必要水分量をみてちょっと少ないかも、と感じた場合は愛猫が十分水分を摂取できているかチェックしてみてください。そのときは必ず代謝水と食事中の水分も計算に入れてください。腎臓病や結石など尿路系の病気が多い猫にとって水分補給をとても大事です。日頃から意識していただくことは、猫の健康寿命を伸ばすためことに繋がるでしょう。

 

参考資料

・Beaver, Bonnie V. Feline Behavior-E-Book. Elsevier Health Sciences, 2003

・Hand MS. 小動物の臨床栄養学(本好茂一、監修) 学窓社,2001.

・Anderson RS. 1982. Water balance in the dog and cat. Journal of Small Animal Practice, 23:588-598

 

山本宗伸 / やまもと そうしん

Tokyo Cat Specialists 院長

日本大学獣医学科外科学研究室卒。東京都出身。授乳期の仔猫を保護したことがきっかけで猫に魅了され、獣医学の道に進む。獣医学生時代から猫医学の知識習得に力を注ぐ。都内猫専門病院で副院長を務めた後、ニューヨークの猫専門病院 Manhattan Cat Specialistsで研修を積む。国際猫医学会ISFM、日本猫医学会JSFM所属。

https://tokyocatspecialists.jp/

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